ニコリと、風のたより 表紙

ニコリ個人シリーズ 第4話。旅立った感謝の実。その先で生まれた新しい『ありがとう』が、風に乗って届くお話です。

1ページ目

1ページ目

感謝の実が旅立ってから、数日の朝が過ぎました。らとらぼ研究所の棚の上では、一つ目の実が、今日も静かに光っています。
ニコリ「おはよう、ハル。今日も明かりの準備をはじめようか。リンっ♪」

2ページ目

2ページ目

朝の仕度をはじめたニコリは、窓を開けて、ふと手を止めました。風の匂いが、いつもと少し違うのです。
ニコリ「……ねえハル。この風、遠くの海の匂いと、それから……何かあたたかいものの気配がする」

3ページ目

3ページ目

ハルも、耳を澄ましていました。森の葉が、いつもより大きくざわめいています。まるで、遠くからやってくる何かを、森全体で迎えようとしているみたいに。
ニコリ「何か、来るね。……心が、そう言っている」

4ページ目

4ページ目

そのときです。窓の向こうから、数粒の光が風に揺られて、館の中へ舞い込んできました。ニコリは、そっと手のひらを差し出しました。光の粒は、その上にふわりと降りて――あたたかく、瞬きました。それは、旅立った実と同じ色の光でした。

5ページ目

5ページ目

目を閉じたニコリの心に、遠くの景色の断片が、そっと浮かんできました。うずくまっていた小さな背中が、ゆっくりと顔を上げる様子。冷えていた心のまわりに、あたたかい光がほどけていく様子。
ニコリ「……届いたんだね。あの光が、ちゃんと届いたんだね」

6ページ目

6ページ目

夕方近く、窓辺に聞き覚えのある羽音がしました。光を届けた、あの小鳥が帰ってきたのです。少し疲れた様子でしたが、羽の先には、光の粒がひとつ、小さく残っていました。
ニコリ「リンっ♪ おかえり。よく届けてくれたね。本当に、ありがとう」

7ページ目

7ページ目

ニコリは、木の実と水の入った小さな器を、小鳥の前にそっと置きました。小鳥は、ほっとしたように羽を休めています。「ありがとう」は、届けた者にも届くもの。小鳥のまわりにも、あたたかい空気が広がっていきました。

8ページ目

8ページ目

日が落ちかける頃、棚の上の一つ目の実が、ぱっと明るく光りました。小鳥の羽に残っていた光の粒が、それに呼応するように瞬いたのです。
ニコリ「見て、ハル。残った光が、旅立った光を覚えているんだね」

9ページ目

9ページ目

光の粒は、小鳥の羽からふわりと離れて、一つ目の実のそばに静かに落ち着きました。そこに灯ったのは、旅の先で生まれた、新しい「ありがとう」の光。まだ小さいけれど、確かに瞬いていました。
ニコリ「いらっしゃい。ここが、あなたの場所だよ」

10ページ目

10ページ目

その夜も、ニコリは館の窓に明かりをともしました。すると、森の小道の向こうから、聞き覚えのある小さな足音。明かりを頼りに来た、あのリスです。
リス「あの……聞いてほしいことがあって。なんだか、胸のあたりがあたたかいの」

11ページ目

11ページ目

リスは、決めた道を歩く中で感じたことを、ぽつりぽつりと話しました。誰かに親切にされたこと。それがうれしくて、誰かに返したくなったこと。
リス「あのときの『ありがとう』も、どこかで誰かをあたためているのかな」
ニコリ「リンっ♪ ……きっと、そうだよ」

12ページ目

12ページ目

ニコリ「『ありがとう』はね、渡したらなくなるものじゃないんだよ。言った人の心にも、ちゃんと残るもの。そして、風のように巡って、思いがけない日に、自分のところへも戻ってくるんだよ」
リスは、じっと耳を澄まして聞いていました。その目は、来たときよりも少しだけ、明るく見えました。

13ページ目

13ページ目

その夜、風がまた静かに吹きました。館の光の粒が数粒、風に乗って森へこぼれ、木々の葉や、眠る花をほんのりと照らします。「ありがとう」の輪は、この森にも、少しずつ広がりはじめていました。

14ページ目

14ページ目

リスを見送ったあと、ニコリは静かにカードを一枚引きました。出たのは、朝日のようなあたたかい光のカード。「はじまり」を告げる、しるしでした。
ニコリ「……そろそろだね、ハル。この森に、新しい風が吹いてくるのは」

15ページ目

15ページ目

届ける者にも、見送る者にも、受け取る者にも。「ありがとう」は、関わったみんなの心に新しい光を灯して、巡っていきます。ニコリは知っています。その大きな輪が、もうすぐこの森の扉を、そっと叩くことを。

16ページ目

16ページ目

次回――『ニコリと、はじまりのカード』巡りはじめた「ありがとう」の輪。カードが告げた「はじまり」の先で、ニコリを待つ新しい気配のお話。
「リンっ♪ お楽しみに」